| はじめに
ノルディック・ウォーキングとは、簡単に言うと2本のストックを使って歩くスポーツのことです。ノルディック・ウォーキングは正式にはディメンチア・ウォーキング(物忘れウォーキング)と呼ばれ、クロスカントリースキーの競技会でスキー板を忘れた選手がストックだけでウォーキングしたことが始まりと言われています。フィンランドでは、1990年代後半になって健康増進のため国を挙げてノルディック・ウォーキングを推奨した結果、フィンランド国民の約1割が習慣的に取り組むまでに普及しました。
一方、日本ではノルディック・ウォーキングはなじみの薄いスポーツであり、ふだん街中で目にすることはまずありません。しかし、国内でもノルディック・ウォーキングの普及にいち早く取り組んでいる地域はあります。平成12年5月、北海道有珠郡の大滝村で日本初のノルディック・ウォーキング協会が設立されました。翌年には会員3名がフィンランドで指導者資格を取得し、平成14年より指導者養成講習会が開催されています。また、平成15年7月にはNPO法人格を有する日本ノルディック・ウォーキング協会が発足し、本格的な普及活動がスタートしました。
ところで、仙台市にはフィンランド・プロジェクトというものがあることをご存知でしょうか。これは仙台市が在仙の大学・企業と連携してフィンランド型福祉のモデル事業を行うものです。本年8月には、東北福祉大学グループ・東北電力・仙台市など産学官の共同事業体である「仙台ウェルネス・コンソーシアム」が経済産業省の健康サービス産業創出支援事業に採択され、10月より東北福祉大学予防福祉健康増進センターを拠点にフィンランドの予防福祉の思想を取り入れた健康増進サービスの開発提供とシニアの雇用創出に向けた取り組みを開始しています。仙台ウェルネス・コンソーシアムでは、フィンランドの代表的な健康法であるノルディック・ウォーキングに注目し、これを広く仙台市民の健康づくりに活用することをねらいに講習会および体験会を開催しております。本稿では、ノルディック・ウォーキングの効果と方法、これまでの仙台ウェルネス・コンソーシアムにおける取り組みについてご紹介します。

ノルデッィク・ウォーキングの効果
ストックを使うことにより腕・肩など上半身の筋肉が動員されるため、通常のウォーキングに比べてトレーニング効果が高まります。米国ダラスにあるクーパーエアロビクス研究所は、健康な成人22名を対象に通常のウォーキングとノルディック・ウォーキングを1600m行った時の酸素消費量の比較実験を行いました(図1)。その結果、ノルディック・ウォーキングでは、通常のウォーキングに比べて20%以上酸素消費量が高まることが明らかになりました。運動中の酸素消費量が20%増えるということは運動によって消費するエネルギー量が20%増えるということです。具体的には、体重60kgの男性が1時間のノルディック・ウォーキングを行うと約400kcalのエネルギーを消費することになります。また、運動強度の指標となる心拍数は、ノルディック・ウォーキングでは、通常のウォーキングに比べて1分間当り約5拍も上昇しました。しかし、ウォーカーが感じる主観的な運動の強度に差はありませんでした。つまり、ノルディック・ウォーキングには身体にストレスをかけずにエネルギー消費を高める効果のあることが示唆されたのです。ノルデッィク・ウォーキングによってエネルギー消費量が増加する理由には、上半身の筋肉が動員されることに加えて歩行速度が増すことが考えられます。ノルディック・ウォーキングの動作を身体側面から見た場合、接踵期に身体後方でストックをつくことにより身体を前方へ加速する反力が発生して歩行速度が増します。しかし、通常の歩行ならば歩行速度が増せば膝や足首などの関節にかかる負担も増加しますが、ノルデッィク・ウォーキングの場合、足とストックの2点で体重を支えるため関節に無理な負担をかけずに安全にウォーキングを行うことができます。また、ノルデッィク・ウォーキングでは通常のウォーキングよりも大きく腕を前後へ動かすため首・肩・肩甲骨の筋群の血行が改善されて柔軟性が増し、首・肩の痛みやこりの解消効果が期待されます。


ノルデッィク・ウォーキングの方法
1)ストック(ポール)について
ノルデッィク・ウォーキングは、スキー用のストックでもできないことはありませんが、ノルディック・ウォーキング専用のポールを使用することをお勧めします。仙台ウェルネス・コンソーシアムでは、日本ノルディック・ウォーキング協会が推奨するノルディック・ウォーカー・トレーナー・プロ(エクセル社製)を使用することをお勧めしています(図2)。ノルディック・ウォーカー・トレーナー・プロは、ポールシャフトに合成カーボン素材を用いているため非常に軽量です。グリップは握りやすくデザインされ、長さ調整ができるストラップがついています。また、アスファルトポーというアスファルトやコンクリートなどの固い路面を歩くためにデザインされた保護用キャップを備えています。
2)適切なポールの長さ
ノルディック・ウォーキング専用のポールの長さは身長×0.7が目安です。ポールの先を地面に垂直に立ててグリップを握った時にウォーカーの肘がおおよそ90度となる長さが最適です。実際のポールのサイズは5cm間隔なので、ウォーキングした時により快適に感じる長さのポールを選ぶとよいでしょう。
3)ウォーミングアップとクーリングダウン
どんな運動でもウォーミングアップとクーリングダウンのストレッチは障害予防の点から必ず必要です。ストレッチは必ずしもノルディック・ポールを使用しなくてもよいですが、ここではポールを使用したストレッチを紹介します。
@胸・背中のストレッチ 足幅は肩幅程度に開き、両手を十分に広げて
ポールを握り両腕を上方へ伸ばし、胸と背中を伸ばします(図3)。

図3 胸背中のストレッチ
Aわき腹のストレッチ @の姿勢から上体を左右へ倒し、肩甲骨からわき腹を
伸ばします。
B肩回し運動 @の姿勢でポールを頭上で大きく旋回し、肩を回します。
C肩の回旋ストレッチ 風呂で背中を洗うような姿勢をとり、肩の回旋筋群を
伸ばします。
D背中のストレッチ 両腕を伸ばしてポールを身体の前方につき、上体を
直角に倒して背中全体を伸ばします。
E大腿前部のストレッチ 両腕を横に伸ばしてポールを身体の
側方につきます。
片足を大きく後に引きます。後ろの踵を上げて両膝を曲げ、さらに腰の位置を
下げて骨盤から膝にかけて大腿前部を伸ばしていきます。
F大腿後部のストレッチ ポールを2本まとめて横にし、両手は肩幅程度に
開きます。背筋を伸ばし、片足を一歩前に出してつま先を上に向け、
上体をくの字に曲げて膝を伸ばします(図4)。

図4 大腿後部のストレッチ
Gふくらはぎのストレッチ 両腕を横に伸ばしてポールを身体の側方につき、
片足を後ろに大きく引きます。後に引いた足のつま先を正面に向け、
踵を浮かさないよう膝を伸ばします(図5)。

図5 ふくらはぎのストレッチ
Hアキレス腱のストレッチ 両腕をやや横に伸ばしてポールを身体の側方に
つき、片足を少し後ろに引きます。後ろに引いた足のつま先を正面に向け、
踵を浮かさないよう両膝を均等に曲げて腰の位置を下げます(図6)。

図6 アキレス腱のストレッチ
4)ノルディック・ウォーキングの基本技術
ノルディック・ウォーキングの基本技術の習得はポールを持たずにウォーキングを正しくできることが前提となります。背筋を真っ直ぐに伸ばし、つま先を前に向けて踵から着地して拇指球を中心に足指で地面を押し出すように蹴ります。上半身は両肘を軽く曲げ、両腕を前後に大きく振るようにしましょう。
次に、ノルディック・ウォーキングの基本技術を示します。
@手をリリースした時にストラップに適当な張力がかかるように長さ調整を
しておく。
Aストラップの輪に手を入れてマジックで固定しグリップを握る。グリップは
親指と人差し指で軽くはさむように握り、他の指は軽く曲げて力を入れない。
B最初は両腕を体側に垂らしてポールを引きずるように歩く。
C徐々に腕の振り幅を大きくし、身体後方でポールをついて歩く。ポールを
つく時に肘をしっかり伸ばす。肘をスムーズに伸ばすために手のひらを
開いて最後はグリップを突き放すようにリリースする(しかし、手はストラップで
グリップと一体化されているのでポールは落下しない)。
D骨盤(殿部)を前上方へ押し出すような感覚でポールをつくことによって
歩行速度が増す。

仙台ウェルネス・コンソーシアムにおける取り組み
仙台ウェルネス・コンソーシアムでは、本年9月と10月にノルディック・ウォーキングのインストラクター講習会を2回実施し、41名が日本ノルディック・ウォーキング協会公認のインストラクターに認定されました。また、一般市民向け体験会を
Well Com21と台原森林公園で実施し、10〜80歳代まで合計106名がノルディック・ウォーキングを実際に体験しました。以下にその概要を示します。
1)ノルディック・ウォーキング インストラクター講習会
目的 日本ノルディック・ウォーキング協会公認のインストラクター養成
日時 平成16年9月11日(土)、10月10日(日)
場所 東北福祉大学予防福祉健康増進センター(Well
Com21)
対象 健康運動指導士、東北福祉大学スキー部部員など
受講者 41名(男性25名、女性16名)
20歳代:18名、30歳代:11名、40歳代:10名、
50歳代:1名、70歳代:1名
講師
日本ノルディック・ウォーキング協会公認マスタートレーナー 仁居氏
内容 講義(1時間)ノルディック・ウォーキングについて(ビデオ鑑賞含む)
実技(2時間)ノルディック・ウォーキングの基本技術
ノルディック・ウォーキング練習(国見ヶ丘周辺2.5km)
2)ノルディック・ウォーキング体験会(第1回)(図7〜9)
目的 一般市民に対するノルディック・ウォーキングの普及啓発
日時 平成16年9月23日(木)
場所 東北福祉大学予防福祉健康増進センター(Well Com21)
対象 貝ヶ森、国見ヶ丘地区住民
受講者 43名(男性14名、女性29名)
30歳代:4名、40歳代:2名、50歳代:5名、60歳代:22名、
70歳代:9名、80歳代:1名
講師
日本ノルディック・ウォーキング協会公認マスタートレーナー 仁居氏
日本ノルディック・ウォーキング協会公認インストラクター 12名
内容 講義(30分)ノルディック・ウォーキングについて(ビデオ鑑賞)
実技(1時間30分)ノルディック・ウォーキングの基本技術練習
ノルディック・ポールを利用したウォーミングアップ
ノルディック・ウォーキング体験(国見ヶ丘周辺)
Aコース 3.5km
30〜40歳代前半 5名
Bコース 2.5km 40歳代後半〜50歳代
6名
Cコース 2.0km 60歳代前半
21名
Dコース 2.0km 60歳代後半〜80歳代前半
11名

図7 東北福祉大野球部屋内練習場脇の坂道を登る |

図8 最年長グループも元気にノルディック・ウォーキング |

図9 入念にクーリングダウン
をする |
3)ノルディック・ウォーキング体験会(第2回)(図10)
目的 一般市民に対するノルディック・ウォーキングの普及啓発
日時 平成16年10月11日(月)
場所 台原森林公園
対象 仙台市内および近郊の住民
受講者 63名(男性23名、女性40名)
10歳代:1名、20歳代:3名、30歳代:2名、40歳代:6名、
50歳代:16名、60歳代:21名、70歳代:14名
講師
日本ノルディック・ウォーキング協会公認マスタートレーナー 仁居氏
日本ノルディック・ウォーキング協会公認インストラクター 20名
内容 講義(10分)ノルディック・ウォーキングについて
実技(1時間30分)ノルディック・ウォーキングの基本技術練習
ノルディック・ポールを利用したウォーミングアップ
ノルディック・ウォーキング体験(台原森林公園)
Aコース 3.2km 10〜30歳代
6名
Bコース 2.8km 40歳代〜50歳代
22名
Cコース 1.6km 60歳代
21名
Dコース 1.6km 70歳代
14名

図10 台原森林公園の坂道を下る
若者グループ
体験会終了後の参加者の間では、以下のような感想が多く聞かれました。
・ふだんは膝が痛くて長時間歩けないのに今日は痛みなしで最後まで歩けた。
・ポールを使うことで歩く姿勢がよくなった(腰が伸びた)。
・腕を大きく振って歩くことができた。
・ふだんより汗をたくさんかいた。
・首や肩が軽くなった。
・道具を使うことで歩く楽しみが増えた。
・これからも体験会を継続してほしい。
・ポールを譲ってほしい。

ノルディック・ウォーキングの普及に向けて
仙台ウェルネス・コンソーシアムでは、これからもノルディック・ウォーキング普及のための体験会を随時開催していきます。また、希望者に対してノルディック・ポールを販売しております。東北福祉大学予防福祉健康増進センター
(Well Com21)では、ノルディック・ウォーキングの普及支援のための情報の発信や各種セミナーの開催を企画検討中です。
【お問合せ先】
東北福祉大学予防福祉健康増進センター(ウェルコム21)4F
仙台ウェルネス・コンソーシアム事務局
〒989−3201仙台市青葉区国見ヶ丘6−149−1
Tel 022−233−2907 Fax 022−233−2908
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