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健康福祉

#02 介護サービスの見える化が「笑顔」を生む。withコロナ時代の新しい情報共有ツール。

新型コロナウイルスの影響で、多くの介護施設が利用者へ家族との面会を制限し、利用者と家族が疎遠になる問題が起きています。

面会制限時、施設から家族への連絡・情報共有は、電話や郵送で行われるのが一般的です。しかし、時間や手間がかかり、双方にとって負担になっています。

エクスツー合同会社は、施設と利用者家族の情報共有を効率化するWebサービス「スマイルサーブ」を開発しました。介護職員の業務負担軽減につながるだけでなく、家族との信頼関係や介護サービスの質の向上も実現します。

同社代表の嶺岸さんに、開発のきっかけや効果、今後の展望などについてお話を伺いました。

介護施設と利用者家族をつなぐ情報共有ツール「スマイルサーブ」

介護施設と利用者家族の情報共有の効率化を目指したWebアプリ。
施設で利用している介護ソフトや独自の記録帳簿から、データを転送することによりケア記録をアップロードできる。アップロードしたケア記録には写真・動画・コメントを加えることができ、職員・家族はスマホやタブレットでいつでもどこでも閲覧が可能。ケア記録共有のための転記や申し送りの時間が削減されるほか、施設と利用者家族の正確でスムーズな情報共有の実現に貢献している。

ICTを活用して介護業界を笑顔に。「スマイルサーブ」開発にこめた想い。

――開発の経緯を教えてください。

仙台市が行っているCareTech推進事業に参加した際、現場の課題調査のために仙台市内の介護施設をいくつか訪問しました。そこで、職員の間接業務が多いことを知りました。例えば文章作成、情報伝達など、主要業務であるケア以外のスキルも求められるんです。でも、ケアのプロが他の分野でも優れた能力を持っているかというと、必ずしもそうではないんですよね。

そこでICTを活用し、情報をうまく伝達できる仕組みを作ることができれば、職員の負担を軽減できるのではないかと考えました。これが、「スマイルサーブ」を開発したきっかけです。

開発コンセプトは「笑顔」です。このツールに関わった方が、みんなほほえましく笑っていただけるようなツールになればいいな、という思いがあります。

エクスツー合同会社 嶺岸代表。
「ICTを使って人手不足の産業の力になりたい」という思いから、2016年12月に起業した。

――開発にあたって、こだわったところは何ですか?

介護記録ソフトに入力した情報が自動でスマイルサーブに転送されるようにしました。以前訪問した施設には、すでにいくつかのツールが導入されていたのですが、別々のツールに同じ内容を入力していたんです。職員に転記の時間を取らせてしまうことになるので、その必要がないものにしたいと思いました。

また、機能を絞り、操作もできるだけシンプルにすることを心がけました。利用者やご家族は高齢の方が多いので、見やすい文字の大きさや画面レイアウトについても意識しました。

――職員間の情報共有のみにとどまらず、利用者家族向けにも配信する機能をつけたのはなぜですか?

ご家族は、利用者のバイタルデータの共有を求めているんですね。たとえば、「今日のおばあちゃんの血圧を知りたい」など。これは、職員の方から教えていただいた情報で、意外な発見でした。

これまでは、ご家族が気をつかって施設に聞けないことも多かったそうなんですね。それが、スマイルサーブを通して施設側から利用者の情報を積極的に配信するようになったことで、ご家族にとても喜ばれたそうです。

情報がないと誰でも不安になりますが、情報があればやっぱり安心。感謝や信頼といった気持ちも芽生えると思うんです。介護記録ソフトとの連動によって施設での様子や健康状態を見える化し、ご家族にも簡単に配信できる。これは、「スマイルサーブ」の強みの1つになったと思っています。

RPA(PC上で行う業務をロボットで自動化すること)により、入力した介護記録は自動でスマイルサーブに転送。
ボタンを押すだけで簡単に家族へ公開ができる。

情報共有だけでなく、ご家族との関係にも変化が。

――導入に対して、施設の反応はいかがでしたか?

試作品の検証をお願いした施設では、最初は積極的にご使用いただけませんでした。新しいツールですし、介護データをご家族に共有することにも心理的ハードルがあったのかもしれません。ですが、3か月後には「素晴らしいツールですね」とほめてくださったんです。海外に住むご家族にも喜ばれているそうで、ご家族との信頼関係の構築につながっていると感じます。

意外だったのは、スマイル機能が喜ばれたことです。施設からご家族に記事を配信すると、スマイル(SNSの「いいね」機能にあたる)が押されるんですね。記事ごとに月間集計ができるので、どんな記事が喜ばれるのか知ることができます。職員のモチベーション向上にもなりますし、やはり反応があるというのはうれしいことだと思いますね。家族からの反応が少しずつ増えてくると、職員も自主的に良い写真を撮って発信するようになったそうです。

アカウントは、利用者1人に対して家族を最大5人まで登録可能。
「既読機能」があり、施設側は誰がどの記事を見たのか分かるので、確実な伝達ができる。

――印象に残ったエピソードはありますか?

スマイルサーブはコメント機能を使ってご家族とやり取りができます。ある施設で、「おばあちゃんはキンモクセイの香りが好きで、秋になると穏やかな顔をしていた」というコメントがあったそうなんですね。それを知った施設職員が、秋にキンモクセイの花を飾るようにしたところ、とても喜ばれたそうです。

施設での様子が見えるようになると、施設に預けっぱなしにならなくなるんですね。「紙おむつがなくなりそうだから持っていこう」みたいに、積極的に施設に関わるようになる。ご家族の理解や協力があると、施設側はとても心強いですよね。職員がケアに専念できる一つの仕組みとして、役立っているのではないかと思います。

コロナによって途切れてしまったつながりを、もう一度つなげたい。

――スマイルサーブはどんな存在になってほしいですか?

開発コンセプトにも通じますが、このツールに関わった人には「笑顔」になってほしいという思いがあります。現在、新型コロナウイルスによって、いろんなつながりが途絶えてしまっています。たとえば、帰省ができず、家族に会うことができない方も多かったですよね。そういう方たちにも、スマイルサーブを通してご家族の元気な様子を知ってほしいです。

ただ情報を共有するだけでなく、コミュニケーションを通して安心を届けるツールでありたいですね。そして、新型コロナウイルスによって途切れてしまったつながりを、もう一度つなげていけたらうれしいです。

――今後の展望についてお聞かせください。

介護職員は忙しいので、「ICT機器に触る」ということ自体が負担になる場合があると思うんですね。そこで、さまざまなセンサーを用いて、介護記録を自動作成できる仕組みを考えています。

勤務時間が終わった後に介護記録が自動入力されていれば、残業をする必要がなくなります。そうすれば、職員のワークライフバランスが充実し、プロとしての力をもっと発揮できると思うんです。そのために、間接業務を減らす手助けとなるものを開発していきたいですね。

おわりに

介護記録の公開をリスクに感じる施設もあると思います。しかし、介護サービスの見える化には、間接業務の負担軽減、利用者家族との信頼関係構築、職員のモチベーション向上など、ポジティブな面もたくさんあります。

先の見えないコロナ禍で、スマイルサーブは新しい情報共有の形として、介護現場に多くの「笑顔」を生み出していくでしょう。

スマイルサーブ

エクスツー合同会社(仙台市泉区)

エクスツー合同会社は、当センターが仙台市と取り組むCareTech推進事業への参加を機に、介護現場の課題調査やソリューションビジネスの開発検討に着手。仙台市内の複数の介護施設で実証試験を行い、現場の声をもとにブラッシュアップを重ね、2020年に正式発売しました。