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健康福祉

#03 超高齢社会を乗り越えるカギは、ICT活用×外国人採用。先進事例から学ぶ、未来の介護の在り方。【オンラインセミナー開催レポート】

現在、介護業界は人材不足に歯止めがかからない状況が続いています。
ロボット・ICTの導入や、外国人人材の受け入れが解決策として注目されていますが、まだまだ着手できていない、定着していない施設も多いのではないでしょうか。

そこで、当センターでは8月4日に、オンラインセミナー「ICT活用×外国人採用による、未来の介護現場づくりのポイント~“未来型施設”の活用事例から学ぶ~」を開催。
講師に社会福祉法人青森社会福祉振興団 理事長 中山辰巳氏をお迎えし、ICT活用・外国人採用を推進する意義や目的、事例をお話しいただきました。

介護現場は人材不足をどのように乗り越えていけばよいのか? 介護業界においてこれから求められる製品・サービスの開発にはどのような視点が必要なのか? など多くのヒントをご提供いただき、介護事業者や製品・サービス開発事業者にとって学びの多い機会となりました。

今回のウェルマガでは、講演内容の一部をご紹介します。
より良い介護の実現に向け、先駆的な挑戦を続ける青森社会福祉振興団の取り組みをご覧ください。

講師紹介

中山 辰巳  氏
社会福祉法人 青森社会福祉振興団 理事長

1991年 特別養護老人ホームみちのく荘園長に就任
2011年 公益社団法人 全国老人福祉施設協議会 副会長
2017年 内閣官房 未来投資会議(総理官邸)
新たな医療・介護・予防システムの構築に向けて 有識者

同法人は2014年ベトナムの国立フエ医科薬科大学と「日越医療福祉事業協定」を結び、自法人職員を講師派遣し、日本式介護の教育をし、その研究先として自分の施設を位置づけ、技術移転を実行に移している。また、施設のICT化、IoT化をいちはやく進め、天井走行リフトや居室内の見守りセンサー等の介護ロボットを導入し、介護の労働生産性向上に取り組んでいる。仙台に新規開設した特養では調理のICT機器も導入し生産性を上げている。

介護業界に迫りくる危機、「2025年問題」

中山氏はセミナーの冒頭で、介護業界がこれから直面する問題として、「2025年問題」を挙げました。
要介護高齢者が増えていく一方で、介護士人材は減少していくことが予想されており、介護業界は今よりもさらに厳しい状況を迎えると言います。

日本人口の最大のボリュームゾーンである団塊世代(1947年~1949年に生まれた世代)が、3年後を中心に後期高齢者に突入します。
この人口構造の変化により、医師や介護士の人材不足、社会保障費の増大などさまざまな問題の発生が予測されており、
「2025年問題」と呼ばれています。

中山氏は、「日本の超高齢社会を乗り切るためには、ICT化と外国人人材の活用(グローバル化)の2つしかない。難しいテーマだが、やらなきゃいけない」と語ります。

介護人材が枯渇している今、グローバル化は避けて通れません。「国や人種、宗教などに関わりなく、現場に来てもらい、日本の超高齢社会を支えてもらうことが必要」としたうえで、外国人人材の受け入れにはダイバーシティ(多様性)の観点を持つことが重要だと言います。

青森社会福祉振興団は、2009年から外国人介護士の受け入れを行っています。 「イスラム教徒の外国人介護士には、ジルバブ(ヒジャブ)の着用を認め、お祈りをする場所も施設内に設けている。利用者にもきちんと説明し、理解を得ることが大切」と語りました。

ICT機器を活用した、高品質の新しい介護

青森社会福祉振興団は、10年以上も前から施設にICT機器を導入しています。ペーパーレス化や、モバイルを使った介護記録入力などによって、いち早く業務効率化を進めてきました。現在は、見守りセンサーや顔認証システム、調理機器、天井走行リフトといったICT機器も活用しています。

iPadを用いて、介護業務をしながらリアルタイムで介護データを記録する様子。
記録内容の標準化やペーパーレス化、職員の残業削減につながっている。

各部屋に標準配置された天井走行リフト。
入居者の移乗を安全に行えるだけでなく、スタッフの介護負担の軽減や腰痛防止にもつながる。

「これからは人の力だけでなく、ロボットやICT機器を上手に取り入れていく必要がある」と言う中山氏。

ICT化を現在検討している施設に対しては、「まずは踏み切ることが大事。『ローマは一日にして成らず』という言葉があるように、そう簡単には上手くいかない。お金も時間もかかる。だからこそ、できるだけ早く導入し、少しずつ進めるのがコツ」とアドバイスしました。

また、青森社会福祉振興団では働き方改革や介護業務の標準化など、働きやすい職場づくりにも積極的に取り組んでいます。
「業務にゆとりが増えれば、介護はもっと魅力のあるものになる。若い人が『こういう介護であればやってみよう』と思える世界にしたい」と中山氏は語ります。人材の定着によって新たな採用を生みだす好循環と労働生産性の向上を目指して、現在は、週休3日制への挑戦や30分単位のシェアリングケアの導入も進めています。

介護業界で求められるロボット・ICT機器とは

これからの介護業界に求められるロボット・ICT機器として、中山氏は具体例を3つ挙げました。

① 介護人材のグローバル化による言語別 介護業務翻訳アプリ

外国人介護士の中には、日本語をまだ上手に話すことができない状態で入国する方もいます。また、地方においては方言が日本語の理解をより一層難しくします。介護現場のグローバル化を進めるうえで、言葉の壁は大きな問題です。そこで、「介護の専門用語も含めた、介護業務に特化した翻訳アプリが必要」と言います。

② 物品運搬ロボット

施設では、オムツや衣類、食品の運搬といった膨大なバックヤード業務があります。運搬作業をロボットに任せることができれば、スタッフの時間と労力をより優先度の高い業務に割り当てることが可能になります。

③ 新たなICT調理機器

介護業界では介護士だけでなく、調理師も不足しています。個々人の栄養や食べやすさに配慮した食事を調理し、1日3回決められた時間に配膳するなど、調理師の仕事には介護士とはまた違った大変さがあります。「調理・食事・介助も含め、良いロボットシステムができることを期待している」と語りました。

誰もが集まり幸せになれる“未来型施設”

2022年6月完成 仙台市太白区「特別養護老人ホームまるめろ」 公式ホームページはこちら

青森社会福祉振興団は、“未来型施設”を目指して、2022年6月に仙台市内に「特別養護老人ホームまるめろ」をオープン。介護現場におけるロボット、ICT・IoTの総合運用や、感染症対応機器(陰圧室整備)の導入など、入居者も職員も安心で安全な日常生活を送れる場を作り上げています。

ロボット・ICT機器の導入におけるWi-Fi環境整備のため、木造建てに。(2階建て)
施設内には美術館や、ミニコンサートができるレストラン・カフェも兼ね備えている。

中山氏はこの未来型施設を中心に、「入居者、家族、地域の皆さまとともに、未来の介護、新しい介護施設をつくっていきたい。これからさまざまな情報発信を通じて、日本の介護のために尽力していきたい」と語り、セミナーを締めくくりました。

おわりに

セミナー参加者からは、「経営者目線でのデジタル化に関する考え方や進んだ取り組みを知ることができた」「新しい介護の在り方を学ぶことができた」「ICT化を図る良いきっかけになった」などの感想がありました。

超高齢社会、グローバル化、2025年問題など、介護現場は急激な時代の変化に対応していかなくてはなりません。青森社会福祉振興団では、時代の先を見つめ、新しい発想で未来の介護の道を切り拓こうとしています。先進的な事例から学ぶだけでなく、社会の変革の中に飛び込んでいく姿勢に、勇気をもらった事業者の方も多いのではないでしょうか。

今回ご紹介したセミナー内容は全体のごく一部ではありましたが、介護分野へのビジネス展開や、現場で課題を見つめ直すきっかけ、ヒントになれば幸いです。

当センターでは、健康福祉やウェルビーイングをテーマに、今後も皆さまのお役に立てるセミナーを開催していきますので、ぜひご参加ください。
また、健康福祉分野の製品・サービス開発、介護事業者におけるICT導入の無料相談を随時受け付けております。お気軽にご相談ください。

オンラインセミナー 女性誌部数No.1「ハルメク」に学ぶ!シニア女性の心をつかむビジネスのヒント

令和4年9月8日(木)13:30~15:00 / Zoomウェビナー

高齢化の進展とともに拡大するシニア市場に向けてビジネスを展開していくことは、企業にとっても重要な課題です。シニアをターゲットとするビジネスには大きな可能性がある一方で、苦戦する事例も少なくないのが実状です。
本セミナーでは、女性誌部数No.1「ハルメク」のシンクタンク「生きかた上手研究所」所長 梅津氏を講師にお迎えし、シニア女性市場の特徴やトレンドを踏まえながら、ビジネスチャンスをいかにして見つけるか、ユニークな事例とともにお話いただきます。
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