#09 フィンランド発のプログラミング教材を活用し、教育現場の課題解決に貢献!

小学校では2020年度よりプログラミング教育が必修化されました。中学校、高校でも順を追って必修化されており、現在「プログラミング教育」には大きな注目が集まっています。
一方で、学校はいまだ手探りの状態です。指導者を教育するための時間の確保など、多くの課題が残されています。
そんな中、フィンランド・オウル市にあるCode School Finland(以下、CSF)のプログラミング教材を活用し、教育現場の負担軽減に取り組んでいるのが、株式会社ミヤックスです。
同社のデジタル事業部・マネージャー 星川 智洋さんに、取り組みのきっかけ、教育現場での実証で見えた可能性や課題について、お話を伺いました。
株式会社ミヤックス(仙台市泉区寺岡)
デジタル事業部・マネージャー 星川 智洋さん
同社は1948年に創業し、学校・教育関係器材の取り扱いから始まり、遊具の設計・製造から販売、教育施設を中心に市民センターやオフィスなどの施設のデザインを70年以上行ってきた。2019年には、デジタル事業部を立ち上げ、デジタルを活用した企業や社会の課題解決にも取り組んでいる。
会社ホームページ: https://www.miyax.jp/
Code School Finland(CSF)
2014年に設立されたフィンランド・オウル市にあるプログラミング学習を提供するEdTech※企業。フィンランド国内でのプログラミング政府指定教科書に指定され、これまで10以上の国と地域で採用実績がある。
※ 教育(Education)×テクノロジー(Technology)を組み合わせた造語で、教育領域にイノベーションを起こすビジネス、サービス、スタートアップ企業などの総称。
教育現場が抱えるプログラミング教育の悩みや不安を軽減したい。
―CSFのプログラミング教材を活用した事業は、どのようなきっかけで立ち上がったのでしょうか?
きっかけは、仙台フィンランド健康福祉センターからCSFを紹介していただいたことでした。プログラミング教育がいよいよ小学校で導入されるというときに、学校関係者の方から不安の声も聞いていたので、何か手助けになれるのではないかと思いました。
CSFのプログラミング教材は、児童向けのコンテンツだけでなく、指導者向けのコンテンツも用意していることから、うまく活用できると感じました。CSFの日本人担当者に協力をいただきながら、教材を日本版にアレンジ・翻訳し学校向けに提供する事業をスタートさせました。

文部科学省は、小学校におけるプログラミング教育の狙いとして「プログラミング的思考」(自分が意図する「動き」を実現するために必要な指示を、論理的に考えていく力)の育成などを挙げている。新たに「プログラミング」の教科が増えるのではなく、既存の教科の中にプログラミング学習が取り入れられる。
―具体的に、どのような流れでビジネスモデルを考えていったのですか?
各学校の先生方にヒアリングをしていくと、「前にいた学校ではドローンを飛ばす授業をしていたけど、今の学校では全然やれていない」とか、「IT企業に出前授業をお願いしている」といったように、学校によって取り組み状況に大きな差があることが分かりました。
また、世の中にはすでにたくさんのプログラミング教材があるんですね。でも、既存の教材では先生が児童へ教えるための指導教材として使うには適していない部分が多いと感じたんです。これらの課題を解決できたらいいなと思いました。

指導者は小学校教師を目指す地域の大学生を募集し、実証に協力してもらいました。
大学生や地域の人材を活用することで、プログラミング教育の充実だけでなく、先生の負担軽減につなげることも本事業の目的です。

複数名の指導者を育成することで、1つの授業をチームで指導することができるほか、PC操作に自信がない児童のサポートを手厚くするなど、安心して授業を進めることができる。
プログラミングによって、児童の自主性を引き出せた。
―CSFの教材を活用する一番の狙いはなんですか?
「特定の教科に限定されず、いろいろな場面で内容を応用できる」というのが最大の特長です。
学校ではプログラミングの時間を確保すること自体が難しいのに、「プログラミングは理科の授業でしかやれていない」という現状がありました。
今回実証を行った小学校でいうと、5年生は図形を書くという内容で算数の授業で、6年生は総合の授業で夢を発表するアニメーションの制作という形で取り入れることができました。普段の授業に加えて、わざわざ新たにプログラミングの授業を設ける必要がないのがいいなと思います。
また、0から10まで手取り足取り教えるのではなく、ある程度基礎を教えたあとは児童が自主的に学べる仕組みになっているのも特長です。自分で考えてトライして、ダメだったら修正して、またトライします。ダメだったときに何がダメだったのかを自分で考え、学びを得ていく。このサイクルが重要で、プログラミングだけなく教育全体の視点としても良いポイントだと思います。

本教材のイメージ。自分がコンピューターだったらと想定し、どんな信号を出せば動くのか? 疑似体験ができる内容になっている。ペアで話し合ったり、発表する場が多く設けられていたりするのも特長。
―教育現場での実証はどのように行われたのでしょうか? 児童や学校からの反応を教えてください。
指導者向けの事前研修をオンラインで実施後、根白石小学校で実証を行いました。
当日5年生20名、6年生27名を対象に、それぞれ算数、総合の授業2コマ分の時間でやらせていただきました。5年生は基礎から図形を書くところまで、6年生はオリジナルアニメーションづくりに取り組んでもらいました。
全体的に満足度が高い結果となりましたが、基礎が身についている児童とそうでない児童の間で差ができてしまって、楽しくなかったと回答した児童もいました。この辺りは次回に向けて改善が必要だと感じています。
「プログラミングは難しいと言うイメージがあったけど簡単で楽しかった」、「身近にある電子機器にもプログラミングが使われていて、自分でも作ってみたいと思った」といった感想もありました。先生たちからも評判が良くて、「普段は前に出てこない児童が前に出てきて発表する機会があり、その光景を見ているだけでも嬉しかった」という声をいただきました。


根白石小学校で行われた実証の様子。準備するものは、児童に配布されているChromebookと、
SCRATCH(アメリカ・マサチューセッツ工科大学のメディアラボが無償で公開しているビジュアルプログラミング言語)のみ。
特別な機器は必要なく、とても簡単に操作できる。
実証終了後に学校へご挨拶に行ったんですけど、授業後に自主的に音を入れてクオリティーの高いアニメーションをつくったり、まだ習っていないクイズを自力で制作できるようになったりした児童がいたと教えていただきました。プログラミングによって児童の自主性を引き出せたのは、すごく良かったと思いますね。
指導者である大学生も準備をすごく頑張ってくれたので、授業自体もスムーズに進みました。彼らも「プログラミングを教える」という経験が今までなかったそうなので、とても学びが多い経験になったのではないかと思っています。彼らがやがて教師になったとき、プログラミングを教えられる人材として活躍してくれると嬉しいです。
地域と連携しながら、プログラミング教育をともに進めていく。
―実証から見えた可能性や課題はありますか? また、今後どのように事業を展開していくのか教えてください。
CSFの教材はとにかくわかりやすく、扱いやすい教材なので、誰でもプログラミングの指導者になれると感じています。
一方で、事業として展開していくために、指導者をいかに確保していくかが大きな課題となります。いくらわかりやすいと言っても、先生方は普段からお忙しいので活用していただくには時間がかかります。先生方に全てを任せるのではなく、子育てが落ち着いた主婦や、元気シニア、教師を目指す大学生など、地域の方々にも協力してもらいながら進めていけたらと考えています。
おわりに
取材中、「小学生の時からプログラミング教育を学ぶ必要性」について伺うと、星川さんはこのように答えてくれました。
「今の児童たちにとって、コンピューターはあって当たり前の状態ですが、どんなに凄いAIが出てきても、誰かが作ったもので、プログラムが裏で働いているものです。プライバシーの問題も騒がれますが、うまくツールを活用する上で小学校のうちからプログラミングを学んでいくことは重要だと思っています。」
「プログラミング教育の充実」と「先生の負担軽減」を同時に実現するのは、とても難しい課題です。しかし、創業以来、地域の学校や教育施設に寄り添いながら事業を展開し、地元企業のDX支援・デジタル人材育成にも取り組んできた株式会社ミヤックスだからこそ、実現の可能性を大きく感じたインタビューでした。