#01 福祉車両が地域活性化のカギに?! 新しい移動のかたち「福祉MaaS」

地方の過疎化や大型スーパーの進出によって、地域の小売店の廃業や商店街の衰退が進んでいます。その影響で、食料品の購入や飲食などに不便や困難を感じる方が増えてきました。いわゆる「買い物難民」「買い物弱者」と呼ばれる人たちです。特に高齢者に多く見られます。
宮城県の調査によると、仙台市の高齢化率は令和3年時点で24.4%。今後も上昇が見込まれており、買い物や移動に課題を抱える方が増加する可能性があります。また、近年高齢ドライバーによる事故が多発するなど、高齢者と交通インフラの関係は今大きな転換期にあるといえるでしょう。
今回は、地域MaaSの可能性について、株式会社エムズ代表取締役 森本浩史さんにお話を伺いました。森本さんは仙台市内で複数の介護サービス事業所を運営。現在は、多くの福祉事業所が抱える送迎の課題や買い物弱者の交通手段の確保などの地域課題の解決にも取り組んでいます。
昨年行った「福祉MaaS」の実証事業について、きっかけや実際に見えてきた新たな課題、今後の展望などをお話いただきました。


MaaSは個人のニーズに合わせて移動手段を手配できる、フィンランド発のサービスです!
MaaSとは?
MaaS(マース:Mobility as a Service)とは、地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスであり、観光や医療等の目的地における交通以外のサービス等との連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段となるもの。
――MaaSに取り組んだきっかけを教えてください。
介護法人が抱える課題のひとつに送迎車があります。どの法人も送迎車を何台も抱えています。維持費もかかり、ドライバーの確保も大変なのですが、実際に稼働するのは朝夕の送迎時間帯だけで、昼間は待機しています。コスト削減や待機時間の有効活用につながる手段を検討した結果、MaaSにたどり着きました。
法人の枠を超えて、送迎力をシェアできれば、コストを大幅に削減できます。また、送迎後に市内を循環すれば、地域高齢者の見守りや移動支援にもつながり、買い物難民を減らすことにもつながると考えました。

森本さん。仙台市内にて高齢者介護施設・企業主導型保育所を運営している。
――MaaS実証事業はどのように行われたのでしょうか?
経済産業省から認可を受けて「仙台市共生型福祉MaaSモデル実証事業」として実施しました。この事業には介護事業所やスーパー、自治体、タクシー協会など7団体が参画。送迎は介護事業所「ゆらリズム」と弊社が担当しました。送迎システム「福祉Mover(ムーバー)」を使い、昨年11月から今年の2月まで取り組みました。
福祉Moverを使ったMaaSは、すでに群馬県で大規模な社会実証が行われ、大きな反響を呼びました。現在、200台ほどの送迎車が県内を巡回しているようです。
利用者は事前に福祉Moverに行き先を登録。利用したい時に電話やスマートフォンアプリで車を予約します。予約が入ると、MaaSのオペレーターが最寄りの送迎車を手配し、ドライバーに利用者情報を送ります。

送迎車は維持費もかかり、非稼働時間も長い。MaaSを活用すれば空いた時間を有効活用できる。
――実証の結果はいかがでしたか?
効率化の面でいうと、元々両社の送迎車は合わせて11台あったのですが、共同送迎によって9台に減らすことができました。2台分の削減というと効果が小さく感じられるかもしれませんが、排気ロスにもつながって環境にも良い。参画する法人が増えればもっと効果が大きくなるはずです。
利用者については、外出の機会が確実に増えました。デイサービス利用日以外は家に閉じこもっていた方が、外に出て買い物をするようになりました。経済も回って、地域も元気になります。画期的な仕組みなのは間違いないです。
今回は実証のため無料で実施しましたが、利用回数無制限なら月額3,000円まで払ってもよいという利用者アンケート結果が出ています。要介護高齢者の人口を考えれば、その金額でも採算が取れるのではと考えています。
――地域にもメリットがあるということですね。どういった行き先が多かったのでしょうか?
スーパーと病院が多かったです。お子さんの家もありました。行き先を自分で決められることは、とても重要なポイントです。「福祉MaaS」は単なる送迎支援だけでなく、自己決定支援でもあるのです。
今回は、ゆらリズムと弊社の利用者のみを対象にしましたが、将来的には地域包括支援センターとも連携して、地域の要支援者の方々にもサービスを広げたいです。

「自分で行き先を決められる」当たり前のことが当たり前にできることが重要だと森本さんは言う。
ちなみに、ドライバーには運転技術と介護技術、そしてコミュニケーション力が求められます。共同送迎では、自分の事業所以外の利用者も乗り降りしますので、オペレーターから送られる利用者情報をもとに最低限必要な介助ができなければいけません。
ドライバーとして関わった職員は社会課題の解決に一役買っていると実感していました。このような福祉観が地域にも広がればいいなと思います。
――今後の社会実装に向けた課題はありますか?
将来は一般社団法人を設立し、高齢化が進む地域に移動支援を行っていきたいと考えています。地域の交通事業者にも送迎を委託し、そちらにも収入が入る仕組みを構想中です。福祉事業者も職員の送迎負担が減り、介護業務に集中できます。
ただ、福祉送迎車両が利用料をいただいて運行するとなると、「福祉有償運送」としての登録が必要になります。登録にはさまざまな条件がありますし、地元交通事業者との相互理解も不可欠です。先行する群馬県でも地域交通との連携のあり方を模索しています。
――将来の展望を聞かせてください。
「福祉MaaS」の実装には乗り越えなければいけない課題がたくさんあります。しかし、稼働すれば、高齢者の重要な交通手段になりますし、地域の活性化にもつながるはずです。
福祉だけでなく、どの業界も自分たちにできることを考えなくてはいけない状況にあります。多くの方々の理解と協力を得て、仲間を増やしながら社会課題の解決に向けて挑戦していきたいです。

「福祉MaaS」には高齢者支援だけでなく、地域活性化の役割も期待されている。
おわりに
福祉分野のみならず、法人の垣根をこえてみんなで知恵を出し合い、社会課題に取り組む「福祉MaaS」。高齢者をはじめ、多くの方が利用できるようになれば、介護事業所だけでなく、さまざまな業界に経済効果が波及していくのではないでしょうか。
新しい移動のかたち「福祉MaaS」。これからの発展にご注目ください!