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健康福祉

#08 まずはやってみよう!介護ICTと地域貢献

まずはやってみよう!介護ICTと地域貢献

現在、少子化や超高齢化などの影響を受けて、介護業界では慢性的な人材不足が続いています。 そのような状況の中で、介護現場では職場環境の改善や外国人材の活用、業務のICT化など様々な取り組みが行われています。

今回は、仙台市内で重症心身障害児医療施設や高齢者福祉施設を運営している社会福祉法人陽光福祉会 特別養護老人ホームエコーが丘施設長の髙田洋樹さんに介護福祉に携わるきっかけや法人としての介護ICTへの取り組み、地域貢献活動などについてお話を伺いました。髙田さんは、今年度より仙台市老人福祉施設協議会の会長も務められています。

社会福祉法人陽光福祉会 特別養護老人ホームエコーが丘施設長の髙田洋樹氏。

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はじめに、髙田さんが福祉に携わることになったきっかけを教えてください。

髙田さん
髙田さん

中学校の恩師から「お前は優しいから、福祉むきだ。将来は福祉系の大学にいったらどうか」と、言葉をかけられたのがきっかけです。

大学進学を機に北海道の富良野から、宮城にやってきました。当時はまだ四大の介護福祉士養成課程は珍しかったので、大学の先生方も手探り状態で大変だったと思います。
学生と教員という間柄ですが、戦友みたいな絆があり当時の先生方とは現在もお付き合いがあります。

また、私の祖母は、私が物心つく前から車椅子の生活でした。祖母宅の玄関にはスロープや自動ドアが設置されており、風呂場には現在の入浴介助リフトの原型ともいえる、チェーンブロックと麻袋を使ったお手製のリフトもありました!

身近に車椅子で生活する祖母がいたことで、「福祉」への土壌ができていたのかもしれません。小学2年生からボーイスカウト活動をしていて、よく高齢者施設への慰問もしていましたね。

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子供の頃から福祉と関わりがあったのですね!
現在、エコーが丘が取り入れているICTにはどのようなものがありますか?

髙田さん
髙田さん

介護記録の入力はPCとiPadを併用、開所時から熱心に導入支援してくれた企業の介護記録ソフトを継続して使用しています。iPadは2ユニットで1台を共有する形です。

当施設ではiPadが登場する前から、PDA(小型の情報端末)を使用して介護記録をつけていました。まだタブレット端末がそれほど普及していない時代だったので、面会に来られた利用者さんのご家族から「職員が仕事中にゲームボーイで遊んでいる!」と、クレームがきたこともありましたよ(笑)

タブレットを使うメリットは介護記録の入力だけではありません。 事前に利用者のご家族から了承を得たうえで、タブレットで利用者さんの様子を動画で撮影し、診察の補助として医師へ提供しています。
医師もこの動画を直接見ることによって、より的確な診察と薬の処方が可能になりました。

以前は、利用者さんが精神科医の診察を受ける際には、職員が口頭でその方の状況をお伝えしていました。ただ、認知症の症状はさまざまなので、言葉で表現するのが難しいこともあります。
また、口頭だけでは職員同士の所見のズレも出てきます。 そこで、実際の様子を撮影し共有することにしたのですが、結果的に職員の負担軽減にもつながりました。

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また、インターネットは全館で使用できるようにしたそうですね。

髙田さん
髙田さん

はい、全館で使用できるようにしています。開所当時は、事務所内に限定していました。職員が病気や薬などについて調べものをするときは、わざわざ事務所に戻ってくる必要がありました。

使いたい時にすぐ使えないのは本当に不便だったので、私用禁止のルールを定めて、回線を全館に開放しました。今では、職員の調べ物はもちろんのこと、タブレットを活用して利用者さん向けに懐かしの楽曲や映画を流しています。

デイサービスではオンラインでレクリエーションも行います。毎回レクの企画を考えていた職員の負担も軽減しました。楽しんでいる利用者さんの姿を拝見するたびに全館にネットを開放してよかったなと感じます。

オンラインでレクリエーションを楽しむ利用者のみなさん(デイサービス)

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ICTの活用で心がけていることはありますでしょうか。

髙田さん
髙田さん

現場にICTを導入する時は、ある程度事前にルールを決めておかないといけません。 あと、ICTを受け入れる土壌があるかどうかは重要なポイントだと思います。

エコーが丘の職員はICTの受け入れには比較的寛容です。施設をオープンした時点から介護記録ソフトを導入していたので、そもそも介護記録を手書きした経験がないんです。 ICTを活用するのが当たり前なので、拒絶反応も起こりにくいというわけです。

もちろん、中途で入られた職員の中には、「紙でしか記録をつけたことがない」という方もいます。両手の人差し指だけで、ぎこちなく入力するところからスタートする方もいますが、徐々に慣れていきます。何事もまずはやってみる姿勢が大事だと思いますよ。挑戦してダメだったらやり直せばいいのです。

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宮城県の補助を受けて、眠りSCAN を全室100床に導入されたそうですね。
※眠りSCAN パラマウントベッド社製の見守り支援システム

髙田さん
髙田さん

はい。当施設の4階にユニットが2つあります。建物の構造上、コの字型になっているため、職員が片方のユニットにいると、もう片方が全く見えないという問題がありました。特に夜間帯は少ない人数で利用者さんをケアしますので、職員の不安や疲労につながりがりやすくなります。そこで、職員の負担を軽減するために導入しました。

職員からは肯定的な意見が多いですね。 以前は職員が夜間巡視をする際に、ドアを開けたり、センサーライトがついたりすることで、利用者さんを起こしてしまうことがありました。
眠りSCANを導入してからは、モニターを通して利用者さんの状況を確認できるようになったので、睡眠を妨害することは少なくなりましたし、職員の負担も軽減しています。

ただし、モニターを見ていれば巡視しなくても良いというわけではありません。現在も定期的に夜間巡視をしていますし、利用者さんが起きた時には必ず見に行くというルールにしています。
利用者さんからは、「何で起きたのがわかるの?」と、よく聞かれます(笑) 利用者さんのバイタルの動きをモニターで確認して、不自然な状態が検出される場合には、むしろ様子を見に行く回数を増やすこともあります。

宮城県の補助を受けて、全室に導入した眠りSCAN

髙田さん
髙田さん

肯定的な意見がある一方で、不安の声も聞きます。

同時に複数の利用者さんの体調が急変した場合、モニターに状態が表示されたとしても、職員がすぐに駆けつけることができない可能性があります。ICTの発達で便利になるのは喜ばしいことですが、職員の数は限られていますので、このようなジレンマも生まれます。

ICTの発達と介護現場の実態とのギャップに不安になる職員もいますので、少しでも不安を解消できるような環境整備を心がけています。

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エコーが丘は地域貢献活動にも取り組まれています。現在の取り組みを教えてください。

髙田さん
髙田さん

母校の大学と共同で介護ICTの研究を行っています。施設でさまざまなデータを収集し、分析していくのですが、検証結果は導入補助をしていただいた宮城県にも提供していく予定です。

また、地域の方が交流する拠点になればと思い、施設の1階部分をテナント貸ししています。現在は、地元の方が子供たちに料理と裁縫を教える「家庭科塾」を運営しています。 地域の子供たちの顔が見られるのが良いですね。

【地域貢献活動の様子】料理と裁縫を教える家庭科塾「マゴノテ」(左) 地元小学校での介護教室(右)

髙田さん
髙田さん

他にも仙台市社会福祉協議会と共同でフードバンクも始めました。

これからは普段交流のある地域の学校や地域包括支援センター等にもご協力をお願いしていきたいと思っています。 どのくらい集まるのか不安はありますけど、これもまた挑戦です。 エコーが丘を通じて、地域に支援の輪が広がっくれたらいいですね。

仙台市社会福祉協議会と共同で始めた「フードバンク」 どのくらい集まるのか…これもまた挑戦です!

(Photo: 社会福祉法人陽光福祉会 特別養護老人ホームエコーが丘)

おわりに

開設当初(15年前)から、介護にICTを取り入れてこられたエコーが丘。
利用者や職員、そして地域にとって必要な取り組みを積極的に行っていく姿勢に感銘を受けました。
「挑戦してダメだったら、またやり直せばいい」という髙田さんの言葉は、陽光福祉会の姿勢そのものを表しているように感じました。

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