#10 高い音響技術を活かし福祉業界に挑戦!新たな船出から広がった可能性とは?

日本の高齢化が急速に進む中で、高齢者向けの市場は拡大しています。
高齢者向けの市場(医療・医薬産業、介護産業、生活産業)は2007年時点で62.9兆円に対し、2025年には100兆円を超えると予想されています(みずほコーポレート銀行の調査より)。
一方で参入にあたっては、「競争が激しい」、「法律等の制約が厳しい」といった障壁も多くあります。
そのような中、福祉業界への参入に挑戦しているのが、仙台発のベンチャー企業、株式会社ミューシグナルです。仙台フィンランド健康福祉センター(以下FWBC)の「令和4年度ニーズリサーチ委託事業」にも採択された同社は、福祉業界向けの製品開発や福祉施設での実証調査に取り組んでいます。
今回のウェルマガでは、同社営業担当の本田裕二氏へインタビュー。福祉業界に挑戦する理由や、福祉施設での実証から得た学びと可能性、今後の事業展開などについて伺いました。
株式会社ミューシグナル
令和元年にスタートアップした、音楽好きなメンバーが集まった「音」のプロフェッショナルチーム。特にプロトタイプ設計において卓越した力を持ち、製品開発に必要なすべてのリソースを自社内で実現できることが強み。高い音響技術を活かし、福祉業界向けの製品開発や福祉施設での実証調査に取り組んでいる。
会社ホームページ: https://www.musignal.co.jp/
コロナ禍をきっかけに、社会課題の解決につながるビジネスに踏み出した。
―どのようなきっかけで福祉業界に挑戦することになったのでしょうか?
株式会社ミューシグナルは、2019年10月に設立した会社なのですが、設立してすぐにコロナ禍が始まりました。弊社はどちらかというとBtoBビジネスを中心とした会社です。でも、コロナ禍が始まってBtoBだけでは事業の継続が難しくなり、BtoBtoC、BtoCビジネスに乗り出しました。
最初は「リラバス」という製品を開発しました。これは、マスクの着用やアクリル板越しの会話などによる、「声が聞き取りづらい」という悩みを解決する機器です。

ワイヤレスマイク付きのスピーカー「リラバス」。マイクを窓口業務の方の襟元に、スピーカーをお客様側に設置することで、マスクやアクリル板等のコロナ対策の中でも、しっかりと声を届けることができる。
その後、声が伝わりやすくなるだけでなく、テレビ電話として会話ができるツール「面会さん」を開発しました。
当初想定していたのは、病院の患者さんとご家族の面会での利用です。しかし、医療機関だけでなく、高齢者向けの製品としてもニーズがありそうだったことから、FWBCに相談することにしました。そこで、ニーズリサーチ委託事業を知り、まずは福祉業界でのビジネスの可能性を調査することになりました。

リモート面会システム「面会さん」。インターネット環境の準備や面倒な開催手続きが必要なく、面会(テレビ電話)を非接触で行うことが可能。据え置きのスピーカーが付いており、音が途切れる・小さい等の高齢者にとって聞こえないと感じる要因を解消している。
―実際に福祉業界でビジネスをはじめるにあたって、個人的な思いなどはあったのでしょうか?
BtoCビジネスを始めるときに、これまで以上に社会貢献を意識した事業にした方が良い、むしろそうしないとダメだと感じました。高齢化による医療福祉のひっ迫は日本全体の社会課題ですので、福祉業界でのビジネスは社会的貢献度が高いと感じています。
社会的に意義のあるビジネスを始められたのは、とても良かったと個人的に思っています。
福祉施設での実証は、思うような結論にはならなかった。
―昨年度(令和4年度)、仙台市内の福祉施設6ヵ所で行われた「面会さん」の実証調査について、詳しく教えていただけますか?
福祉施設と全く接点がない状態からのスタートでしたので、FWBCにご協力いただいて本当にありがたかったです。そこで出会えた施設の方や利用者の方に「面会さん」を試用していただいたというのが今回の実証でした。
ただ、結果から申し上げると、今回は私たちの製品力が足りず、施設の方々のお役には立てませんでした。試用した方からは好意的な反応もいただきましたが、購入したいと思ってもらえるレベルまでには至りませんでした。
今回の実証で分かったのは、私たちの会社・製品のブランド力が弱いこと、そして事前の認識が不足していたことです。福祉施設が機器を利用する場面や購入する予算などについて、きちんと理解できていませんでした。会社の知名度も、製品の知名度もない状態から製品を提案していくのは、とても難しいことです。新たな業界に参入していくために、もっと調査の質と量を上げ、製品を企画すべきだったと今感じています。
今回の実証では思うような結論にはなりませんでしたが、困っている方が確かにいる、つまりニーズがあることを確認できたのは大きな収穫でした。
失敗から学んだことが、ちゃんと役に立っている。
これからも地域に貢献する会社でありたい。
―「面会さん」の実証を得て、現在どのようなことに取り組まれているのか教えてください。
「ミュートラックス」という新しい製品の開発・販売をはじめています。用途がとても広く、拡張性のある製品です。

ミュートラックスは無線LANを用いて音楽を配信する技術。
1台の音源から複数台のスピーカーに対してワイヤレスで音楽を配信することができる。

ミュートラックスは、音源とスピーカーを繋ぐケーブルが不要なため、お店やイベント会場でのオーディオシステム構築において、自由かつ安全なレイアウトが可能。
どこにいても聞こえやすい、均等で心地のいい音響空間を作り出すことができる。
現在、ミュートラックスを福祉業界向けに拡張するアイデアを考えています。
既存のミュートラックスはスピーカーから音を出す仕様ですが、これをイヤホンにつなぎ、多くの人が同じ音源を同時に聞くことができるようにする予定です。
例えば、地域の集会場に住民が大勢で集まって、どなたかがマイクを使って話をするとします。この場合、老人性難聴の方はスピーカーの近くにいかないと会話の内容を聞き取れません。そこで、老人性難聴の方にミュートラックスのイヤホンをお渡しすれば、場所に関係なく聞き取りづらさを解消することが可能になります。
また現在、仙台市、仙台市医師会、東北大学、NTT東日本が連携して取り組んでいる、オンライン診療の実証に参画しています。
将来、東北地方の医師不足が進むことを考慮し、オンライン診療の積極的な応用を検討するもので、弊社は「面会さん」とオンライン診療用の聴診器を提供しています。
今回の実証をきっかけに、医療福祉業界向けの展開を進めることができています。
先ほど色々と失敗談を話しましたが、その経験はちゃんと役に立っています!
【プレスリリース】オンライン診療のさらなる活用に向けた実証を仙台市で開始(PR TIMESより)
―実証調査は思うような結果には至りませんでしたが、調査から得た学びを活かされているのですね。最後に、地域への貢献についてのお考えを教えてください。
弊社の代表は仙台出身なのですが、「仙台を拠点にエンジニアが活躍できる会社を作る」という思いで、起業しました。大学を卒業すると多くの人が地元を離れてしまうのは、仙台市が抱える人材確保・人材流出の課題でもありますが、だからこそ仙台で頑張りたいという強い思いがあります。今では地域に貢献するという考え方が全社員に浸透しています。今回の実証から得た学びを活かして、今後も地域のために活動を行っていきたいです。
おわりに
株式会社ミューシグナルは、コロナ禍の影響を大きく受けた企業の一つです。
それでも逆境を乗り越え、社会や地域の課題に向き合い貢献を続けています。同じように地域で奮闘する企業の皆さまにとっても、勇気をもらえたインタビューだったのではないでしょうか。
当センターでは健康福祉分野の製品・サービス開発、介護事業者におけるICT導入の無料相談を随時受け付けております。ぜひお気軽にご相談ください!