#11 地域とともに取り組む「外国人採用」

近年、介護人材不足の深刻化が叫ばれています。対策として外国人人材の活用が注目されていますが、言葉の壁や現場の理解などの課題から、取り組めていない施設も多くあります。
そんな状況のなか、いち早く外国人採用に取り組んできたのが特別養護老人ホームせんじゅ(設置:社会福祉法人大樹)です。同施設は2011年12月にオープンし、近い将来訪れる介護人材不足を見据え、外国人人材を積極的に受け入れてきました。
今回のウェルマガでは、統括施設長の大宮 憲二 氏にインタビュー。外国人人材への教育や地域連携の取り組みなどについて詳しく伺いました。
社会福祉法人 大樹
特別養護老人ホーム せんじゅ2001年に法人が設立。現在、青葉区内に5つの形態の介護施設・保育園を運営しており、福祉と医療の連携による安心・快適な暮らしを提供している。
特別養護老人ホーム せんじゅは2011年に開所。ICTの導入や外国人採用に積極的に取り組んでいる。公式ホームページ: https://taiju-sendai.or.jp/
将来の介護人材不足を見据え、外国人採用をはじめた。
―はじめに、外国人採用に取り組まれたきっかけを教えてください。
特別養護老人ホーム せんじゅは2011年12月に開所した施設です。
私は立ち上げから携わっているのですが、開所した当初から採用活動に苦戦していました。これまで派遣や人材紹介を利用してきましたが、コストが高く、また短期間で離職してしまうなど課題が多くありました。
慢性的な人材不足が続く中、日本人だけではさらに人材不足が加速すると危惧し、外国人採用に取り組みはじめました。派遣職員の直接雇用に加えて、外国人を採用することで、人材不足を解決する考えです。
当施設では、特定技能と技能実習の在留資格を持つ外国人を、毎年約10名ずつ迎え入れています。国はベトナム、ミャンマー、インドネシアで、今年もミャンマーから6名を受け入れる予定です。コロナ禍によって受け入れは一時ストップしましたが、最近また力を入れて受け入れの準備を進めています。
―外国人を採用するにあたって、不安はありませんでしたか?
日本に在留する外国人の中で、とりわけ人数が多いベトナムをはじめに選びました。当時は外国人を採用している施設が周辺に少なかったので、介護技術や日本語レベルを知る術がなく、もちろん不安もありました。そこで、ベトナム人を採用している神戸と水戸の特別養護老人ホームへ視察に行きました。
実際に働く様子を見学できたことで、本格的な受け入れ準備に移ることができました。2019年12月、当法人ではじめての外国人採用となるベトナム人2名を受け入れました。

統括施設長の大宮 憲二 氏。福祉系の大学を卒業後、介護職員として10年以上従事。 2011年に同施設に中途入職し、施設の立ち上げから運営に携わってきた。
指導や教育は、意識して丁寧にフォローをする。
―外国人職員の教育で心がけていることや工夫されていることを教えてください。
はじめてベトナム人を受け入れたのは2019年12月ですが、2019年4月の段階でベトナム人の通訳を採用しました。現在も、外国人職員への生活と日本語の指導を担当してもらっています。 通訳に加えて、定期的に日本語講師にもきてもらっています。日本語能力試験(JLPT)のN3レベルの合格を目標に、施設内で日本語を勉強できる体制を整えています。
そのほかに、外国人職員全員を集めて遊園地や動物園に行ったり、芋煮会をしたりなど、施設内レクリエーションを行っています。今年の春に行ったレクリエーションでは、外国人を採用している近隣の施設にも参加してもらい、合同で実施しました。外国人を採用している施設がもっと増えれば、一緒に交流会ができたらいいな、と思っています。
また業務に関しては、最初から日本人職員と同じレベルは求めていません。「まずはできることからやってもらう」考え方が大事です。
―介護や日本語以外のことで指導・教育していることはありますか?
たまに利用者の方から「何を言っているか分からない」と言われて、凹んでしまう職員がいます。そのときは、現場でリーダーが声がけをしたり、人員配置を配慮したりして、メンタルケアをしています。
ほかにも、有給の取り方や退職するときの流れなども教えています。やっぱり、外国人職員は意識して丁寧にフォローしてあげる必要があると感じています。特に社会人としての働き方やマナーは、送出機関と監理団体、そして我々施設の3ヵ所でしっかり教育することが大切だと思いますね。
外国人採用は"やるしかない"。地域で連携し、取り組んでいく。
―今後の展望を教えてください。
介護人材が将来さらに不足するのは間違いありません。人材不足を解消するためには、外国人の採用とICT・ロボットの活用が不可欠だと私は考えています。
当施設ではICTの導入も進めています。昨年度は見守り介護ロボットを全床に導入しました。これにより、スマホやタブレットを使って24時間の見守りが可能になり、職員の負担も軽減しました。


全床のベッドにセンサーマットを設置。スマホやタブレットを使って、利用者ひとり一人の心拍、呼吸、体動、離床の状態や睡眠状態などを確認している。
また、当施設での外国人採用の取り組みを発信し、地域での連携を強めていきたいと思っています。
今年の夏には、外国人採用を希望する介護事業者を対象に、外国人人材の確保と受け入れ準備に関する説明会を実施しました。今後もこのような取り組みを続けていきたいです。


説明会の様子。仙台市の外国人技能実習生 監理団体の主催で、社会福祉法人大樹が全面協力のもと開催され、介護事業所10社が参加した。送出機関(ベトナム)とオンラインでつなぎ、外国人人材の現状や教育内容を紹介したほか、外国人職員へのインタビュー、現場見学などが行われた。
―最後に、これから外国人採用をはじめる施設・法人に向けてメッセージをお願いします。
外国人採用は、なんとなくハードルが高く、大変そうなイメージがあると思います。また近年では、円安や国際間の人材獲得競争により、外国人人材の国外への流出も懸念されています。この状況で、自分たちの施設だけでがんばるのは限界がありますよね。他の施設をライバルとするのではなく、助け合うぐらいの感覚じゃないと、現在の深刻な人材不足を耐えるのは厳しいと思います。
だからこそ、地域の近隣の施設と一緒に取り組むことが大切ではないでしょうか。
さきほどお話したレクリエーションや交流会もそうですが、日本語授業の合同実施など、連携できることはたくさんあります。地域の連携が強くなれば、施設の負担も減り、外国人採用のハードルはどんどん低くなっていくと思います。地域の連携は、採用後の定着にもつながります。
外国人採用はやるしかありません! 将来、さらに人材不足になってからはじめると、準備も含めて対応が後手に回ってしまいます。できるだけ早く取り組んで、採用や教育に慣れておくことが大切です。

おわりに
外国人採用にいち早く取り組んできたせんじゅですが、これまでたくさんの苦労や困難を乗り越えてきたそうです。
大宮さんは「失敗事例も発信していくので、ぜひ活用してほしい」とおっしゃっていました。
これから外国人採用をはじめる施設にとって、大宮さんの言葉はとても心強く、背中を押してくれるのではないでしょうか。
「外国人採用は地域で協力して取り組む」という考え方は、深刻な人材不足を乗り越えていくうえでとても大切だと感じました。