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健康福祉

#13 コミュニケーションの壁を乗り越える ~障害者就労支援の現場から

多様性の時代と言われるようになって久しい日本。しかし、他国に比べて、ダイバーシティー対応が遅れていると言われています。例えば、障害者の就労の場合、法定雇用率を達成した民間企業の割合は48.3%にとどまっており(厚生労働省「令和4年 障害者雇用状況の集計結果」より)、十分とは言えない状況にあります。

そこで、今回は聴覚障害者雇用者向けに研修サービスを開発する松原利江子さんにインタビューを実施。障害者雇用の現状や就労促進に必要なことについて伺いました。

コロナ禍でわかったコミュニケーションの壁

―松原さんは現在太白区を拠点に活動をされています。どのような事業をされているのでしょうか。

現在、特定非営利活動法人時のひかりに所属し、聴覚障害児特化型のデイサービスの管理者をしています。時のひかりは、障害児者及び障害者支援にかかわる人々に対して、療育保育・休息、子育て支援医療福祉サービスの提供、並びに家族支援に関する事業を展開しています。

時のひかりの母体は太白区長町にある浅沼整形外科を中心とする太長会グループです。医療法人太長会の浅沼理事長をはじめ、NPO法人 時のひかりの藤澤代表理事に、私どもが以前からやっていた放課後デイサービスや聴覚障害児者支援にご共感いただいて、今年の6月からご一緒させていただいています。

松原さん。時のひかりに所属。※今回の取材はオンラインで実施

―昨年度FWBCが委託した聴覚障害者雇用者向け研修サービス開発事業について、伺えればと思います。

聴覚障害者、特に時短で在宅就労を希望する女性を対象に、ITスキルの習得と、ビジネスメール等のマナー研修を行いました。彼女らを受け入れる企業や講師に対しても障害理解を深めてもらう研修を行いました。また、委託事業と並行して独自に聴覚障害者に実際に就業を経験してもらうITテレワークの実証事業を行いました。

事業を立ち上げたのはコロナ禍中でした。緊急事態宣下で外出が規制された期間に、在宅ワークが急速に広がりましたよね? 私はこの流れは聴覚障害者の就労にとって追い風になると思ったのですが、実際はそうはなりませんでした。というのも、テレワークによって、新たなコミュニケーションの課題が浮き彫りになったからです。在宅ワークは聴覚障害者にとってもメリットが多く、在宅で働きたいという方も多いのですが、なかなか実現するまでには至らないのが現状です。そこで、障害者・企業間の障害理解の壁を越える手だてをつくりたいという思いで事業を立ち上げました。

―新たなコミュニケーションの課題とはどういったものでしょうか。また、研修をどのように実施されたのでしょうか。

例えば、聴覚障害者は電話でのコミュニケーションが困難です。そこで、文字でのコミュニケーション、つまりメールやチャットといったツールを使うことになるのですが、文字であれば100%理解できると企業側は思いがちなんですね。

でも、(先天的に)耳が聞こえない方たちは、生まれながらにして聞こえない状態で日本語を学びますので、健常者に比べて、日本語能力が少し下がる傾向があります。ですので、「いつまでに何をどの基準で仕上げてください」といった、よくあるビジネスのやり取りであっても、長文だと意図がうまく伝わらないことがあります。また、テキストベースのコミュニケーションだと、時間に関係なく連絡がどんどん来るようになります。

そこで、研修ではビジネス基礎力の向上を目的に、ITやコミュニケーションスキル、ビジネスマナーを学んでいただきました。失敗を繰り返しながら練習を重ねた結果、社会参加に向けた可能性が広がりました。

研修の様子。耳が聞こえない方にわかりやすく伝えるために、さまざまな工夫をしながら実施した。

大事なことは相手に配慮したコミュニケーション

―今回の研修の実施にあたって、工夫した点を教えていただければと思います。

 一番大切にしたポイントは、受講者とのコミュニケーションの取り方です。何かを伝える時には「具体的に、シンプルに、わかりやすく」を徹底しました。私達だけでなく、講師や企業にもご配慮いただきました。おかげさまで、受講者からは「安心して受講できた」といった感想をいただきました。

また、研修中はコミュニケーション補助として手話通訳者を配置したほか、話した内容をスマートフォンやパソコンに文字で表示してくれる「UDトーク」というアプリを使いました。

受講者の多くが手話通訳を活用することを我々は想定していましたが、蓋を開けてみるとUDトークの方が使用率は高かったです。というのも、手話を見ながらPCで作業をすると、視線が一か所に定まらないので集中できないんですね。自身のスマートフォンに文字化された講師の言葉を見ながら、PCで作業する方が一番集中できましたし、のみ込みも早かったです。また、UDトークは表示した文字を保存できるので、研修後に復習できるのも有効だったと感じています。

文字起こしアプリを使って講師の説明をスマーフォンに表示させながら、研修作業をPCで行った。

―研修講師を対象にした研修も実施されたそうですね。

今回の研修講師は今まで耳の聞こえない方に会ったことがない方だったので、研修資料作成の注意点やわかりやすく見せるコツを事前にお伝えさせていただきました。また、各研修で気づいた改善点はすぐに反映させて、次回以降の資料をブラッシュアップしていきました。

講師や企業に対して障害理解の研修を実施することはかなり有効だったと感じています。耳が聞こえないとか、人によっては環境変化に弱いとか、強く混乱してしまうこともあるとか、外見ではわからない障害者に対する理解を深めることが、地域全体にとっても必要なことなので、このような機会を持てたことはものすごく意義があったと思っています。

障害者とどのようにしてコミュニケーションを取るべきか、研修前に講師は不安を感じていましたが、事前研修を経て、実際に彼女らと向き合ってみると自分が想定していたよりもはるかに円滑に研修が進んだとのことでした。ツールを使うことで、コミュニケーションの壁を越えられたことも、すごくいい勉強になったそうです。

あと、資料の作り方については、以前よりも増して読み手に配慮するようになったそうです。今後、自分が研修をする時に、誰が見てもわかりやすい資料をつくる視点を持つようになったとのことでした。

資料作成のポイント。障害者以外の方に対しても心がけたい事項が多い

―研修生を受け入れた企業の反応はいかがでしたか。

聴覚障害者は「耳が聞こえない“だけ”だ」という認識をお持ちの方が多く、最初は作業指示を長文のメールで送ってしまい、障害者の理解が追いつかないこともありました。聴覚に対する配慮だけでなく、コミュニケーションに対する配慮も必要であることをご理解いただけました。

コミュニケーションの取り方に特性があったり、配慮が必要だったりすると、私どものような中間支援団体があった方が、働く方も受け入れ企業も安心できると思います。一方で、企業の担当者からは、「彼らの特性をいかに活用していくかについて、企業が主体的に考えていく必要がある」といったお話しがありました。

地域で支え合う仕組みを広げていきたい

―企業の方にも気づきが多くあったようですね。今回の事業が、社会に与えるインパクトや可能性についてどのようにお考えでしょうか。

働きたいとか、社会とつながりたいと考えている障害者は多くいらっしゃいます。一方で、働く意思を表明することさえ難しい障害者が潜在するも事実です。

社会的に弱い立場にいる方々が働きやすい環境を整えていくことや、行政や地域企業に理解を深めていただき社会的に受け入れの基盤を作っていくことが非常に重要だと感じています。今回は聴覚障害がある方を対象にしましたが、育児中の方や、介護中の方、療養中の方、外に出られず引きこもってる方々などの働き方の糸口に今回の事業がなっていくのではないかと考えています。

私たちの法人には、障害の有無にかかわらず、自分らしく輝いて生活できる地域の仕組みを構築していこうという大目標があります。地域の子供たちの社会的に生きる力を育み、障害者の働き方も整え、年を重ねても安心して自立した生活を送れるように支えていく。まずは太白区長町が中心になるかと思うんですけれども、仙台市内に広げて、いろいろな地域で弱い立場にある方々が経済的自立を果たしながら、自分らしく生きられるシステムを構築していきたいと考えております。「困ったときはお互いさま」という意識が地域にもっと広がると良いですね。

太白区長町の風景

おわりに

地域内で密な関係性を築き、さまざまな立場の人を支える仕組みは、人口が今後さらに減少する日本において、また多様性の時代において、今後ますます必要とされていくのではないでしょうか。「困ったときはお互いさま」という気持ちと、松原さんのような中間支援者の存在がいっそう重要になっていきますね。

 

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